雪解けと共に…九十九草

 この花に逢いにゆくのは、一筋縄ではいかない。長い冬が終わり、早春の日射しが雪を解かす、高山の彼方の斜面に、ひっそりと咲き誇る。その道のりは、天候によっては、アイゼン、ピッケル携行の山行にもなる。

 この日、多くは蕾だった。人は好き好きだろうけど、僕は、咲き始めのツクモグサが好きだ。蕾は白い綿毛に覆われ、極寒の世界を生き延びてきた事を思わせる。待ち焦がれた春に、クリーム色の花弁を開く時、その煌めく美しさで、赤茶けた大地を彩る…。他に、命は見当たらない。僕と、ツクモグサ、だけの世界だ。

 今度いつ逢えるか分からない別れ…。約束の出来ない別れ…。この花に逢う為だけに訪れた山頂で、僕は、去り難い思いを断ち切るのに、一時間を要した…。

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