北海道沢登りガイド

 登山者に於いて、そのスタイルから分類される呼称がある。まあそれは、一部のマニアックな世界に属する種類の人にしか伝わらないわけだけど…。基本的に、地図に記されている登山道を歩いて山頂へと辿る登山者をハイカーと呼ぶ。おおよそ大部分の登山者は、これに属すると思う。それ以外のルートを選んで頂を目指したり、山に入る行為をバリエーションと呼ぶ。これには賛否両論があることを踏まえて、山に入る心構えも必要となる。

 これらのバリエーションの中に、どんな手段を選び、また、それを得意とするか、それを趣向とするかで、呼称が分かれる。岩稜を主に利用し、ロープその他の器具を駆使して登る人たちを、「岩屋」という。道無き藪を漕いでひたすら頂きを目指す人たちを、「藪屋」という。幾筋も流れる沢を辿り、時には滝を登り、頂きを目指す人たちを、「沢屋」という。その総称として、「山屋」という言葉もある。

 ganさんは、北海道に於いては、既に著名な「沢屋」である。勿論、初めから「沢屋」ではなく、普通の登山者だった。登山という行為は、ある意味、非日常への旅立ちであり、冒険への入口でもある。人には、少なからず、そうした欲求があるのかも知れない。そして、小さな冒険は、より大きな刺激を求めて、新たな冒険へと誘惑する。ganさんにとって、行き着いた場所が、山を彷徨し、困難を乗り越えて得られる喜びの世界が、沢の中だということだ。

 人はそれぞれだから、総てを理解出来るわけでもなく、その必要もない。ただ、フィールドが違っているとしても、人は、身の丈のあった冒険の旅に出ることを、密かに望んでいるものだと、僕は思ったりする。この本は、所謂、大自然と対峙する人たちのためにだけ書かれたものだと思いたくはない。日常を健康に過ごすために、非日常の世界が、如何に有効なのかと教えてくれるものだと思う。

 自然を愛好し、山に入るものにとっては、沢を遡行するという行為が、どの様なものかを知るガイド本になり得るだろう。大自然は、刻一刻と変化する。この本に記された地形や、書き表された光景が在るとは限らない。それ故に、沢を遡行するということは、冒険の領域なのだ。この本を読めば、遡行を完結出来るものでもない。身の丈を知る事も含まれてのガイドなのだ。

 僕は、勝手に思う…。ganさんは、冒険の旅への扉を指し示したいのではなかろうか…。それは、間違いなく、まだ知らない「自分自身」に出会える…。そう、強いも弱いも含めて…。決して甘美な世界が待っているという約束など無い。挫折もまた、人生に於いて、必要不可欠なものだと知る。それを乗り越えたとき、いったい、何が待ち受けているのか…。そんな自分に、逢ってみたいと、思いませんか? 思ったのなら、さあ、本屋さんに、行こう!

 

 

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